この黒い宝石は、石になった森だ ヴィクトリア朝の喪の宝飾品に使われた漆黒の宝石ジェットは、鉱物ではなく化石化した木である。古代の針葉樹に似た木が水を含んだ流木となり、海底の泥に埋もれ、およそ1億8000万年かけてゆっくりと圧縮され化学変化を起こし、ガラスのように磨ける硬く軽い石炭の一種になった。1861年にアルバート公が亡くなると、悲しみに暮れた女王はこれを身につけ続け、一時期は英国宮廷で許された唯一の宝飾品だった。
石炭の塊は3億年前の細胞を保つことがある ふつう石炭は植物を平らな黒い染みへと押しつぶすが、まれにコールボール(石炭球)ができる。泥炭が押しつぶされる前に鉱物に富んだ水が染み込み、植物の細胞一つひとつを石で満たして、湿地を立体のまま閉じ込めた塊だ。これを切って磨くと、3億年前の森の細胞壁や葉、胞子がそのまま現れる。科学者は切断面にフィルムを押し当て、石炭時代の生命の完全な写しを剝がし取って読み解く。
この丘は6000年間燃え続けている ニューサウスウェールズ州のバーニング・マウンテンでは、地下およそ30メートルの石炭層が少なくとも6000年にわたってくすぶり続けている。地球で知られるかぎり最古の火だ。溶岩もなく、地表に炎も見えない。石炭層は十分な空気に触れる場所でただゆっくりと燃え、年に約1メートルずつ南へ進みながら、焦げて変色した岩を後に残していく。その上の地面は手で触れると温かく、淡い灰をかぶり、かすかな煙と硫黄のにおいを吐き出している。
マッチ一本で火がつく石炭 たいていの石炭は火がつくのに激しい炎を要するが、キャンネル炭はマッチ一本で点き、長く明るい炎をあげて燃える。だからかつては「ろうそく炭」と呼ばれた。これは普通の石炭とは違う成り立ちで、木質の湿地ではなく、静かな湖の水に胞子や藻類が降り積もってできた。そのため水素に富み、きめが非常に細かく、つやがなく蝋のような質感をもつ。人々はこれを炉で燃やして明かりとし、なめらかな黒い石を彫って飾りや数珠玉にした。
石炭の森は巨大なコケで、竜と見間違えられた 石炭を生んだ大湿地は、樹木の森ではなくヒカゲノカズラの仲間(クラブモス)の森だった。今日、林床を足首ほどの高さで這う植物と同じ系統の親戚である。そのひとつレピドデンドロンは、高さ50メートルにもなる鱗状の柱へと育った。樹皮は菱形の葉痕がびっしりと並ぶ模様で、爬虫類のように見えたため、1800年代には化石の幹が巨大な蛇やトカゲの石化した皮として見世物にされた。実際にはつつましいコケの、途方もなく巨大化した親戚だったのだ。
最良の石炭は、ほとんど変成岩だ 石炭には等級があり、無煙炭はその頂点に立つ。圧縮され加熱されきって、ほとんど変成岩に近い。九十数パーセントにも達するほぼ純粋な炭素でできて硬く、やわらかい石炭の鈍く崩れる様子とは違い、金属のような黒い光沢を放つ。火はつきにくいが、いったん燃え出すと、すすや灰の少ない、熱く短い、ほとんど煙の出ない青い炎をあげる。磨くと、燃料というより一枚の黒いガラスのように見える。
石炭の中の「愚者の金」が炭鉱を燃やすことがある 石炭はしばしば黄鉄鉱、すなわち真鍮色の鉱物「愚者の金」できらめく。これは決して不活性ではない。きめの細かい黄鉄鉱が空気と水分に触れると反応して熱を出す。硫黄分の多い炭層では、その熱だけで石炭がひとりでに温まり、火花ひとつなくても自然発火してくすぶり始めるほどだ。同じ反応は硫酸も生み、古い炭鉱からにじみ出て近くの小川へ流れ込む、さび色のオレンジの酸性排水のもとになる。
ダイヤモンドは石炭からできるのではない。はるかに古いのだ 圧力が石炭をダイヤモンドに変えるというのは、よくできた話だが間違いだ。石炭は地表近くの陸上植物からできるが、ダイヤモンドははるか深く、マントルの地下100キロメートル以上のところで形成され、その後、激しい噴火に乗って地表へ上ってくる。時代がそれを物語る。ほとんどのダイヤモンドは10億〜30億年前のもので、最初の陸上植物が現れるはるか前に、つまりそれを作るもとになる石炭が存在するよりも前にできているのだ。