泡立つ一本に、車のタイヤ3本分の圧力 栓をしたスパークリングワインの瓶には、およそ5〜6気圧の圧力がかかっている。車のタイヤのおよそ三倍だ。その力は、瓶の中での二次発酵で閉じ込められた二酸化炭素から生まれる。溶け込んだガスを放てば、常圧でおよそ5リットルにまで膨らむ。コルクをそっと抜くと、この圧力が噴き出すガスの勢いと、続いて立ちのぼる泡の筋を生み出す。
飛び出すコルクは時速50 kmに達する スパークリングワインのコルクを押す気圧は、それを時速50 km以上で飛ばすことができる。しかも温度が上がるほど速さは増す。温まった液体は溶け込んだ二酸化炭素をはるかに保てず、瓶の中の圧力が高まるからだ。高速赤外線撮影によれば、瓶の首はほんの一瞬ロケットのノズルのように働き、噴き出すガスのジェットは1ミリ秒のわずかな間、超音速に達する。瓶を8〜10度ほどに冷やせば、飛び出しはより遅く、より安全になる。
ワインの「涙」は重力に逆らってグラスを登る ワイングラスを回すと、薄い膜が内側を這い上がり、しずくになって集まり、やがて「脚」や涙となって滑り落ちる。これがマランゴニ効果だ。アルコールは水より速く蒸発し、表面張力も低い。だから上のほうの膜はアルコールを失い、表面張力が高まり、その強い張力がより多くの液体を重力に逆らって引き上げる。蒸発による冷却がこの効果を鋭くする。グラスに蓋をして蒸発を止めれば、涙はすっかり消えてしまう。
ビールの泡は、大麦のあるタンパク質のおかげで生き延びる ビールの泡が長持ちするのは、脂質輸送タンパク質1という、小さくて頑丈な大麦のタンパク質のおかげだ。仕込みの熱を生き延びて泡の表面に集まり、そこでホップ由来の苦いイソα酸と手を組み、泡をまとめ上げる。脂肪は天敵で、遊離脂肪酸は泡をたちまち崩してしまう。このタンパク質の役目のひとつは、泡を壊すそうした脂質を捕まえることであり、おかげで泡と、グラスに残るその縁取りが長く保たれる。
ラガー酵母の野生の親は、パタゴニアに隠れていた ラガーは、寒さを好むある酵母で醸される。それは雑種だ。ありふれたエール酵母と、謎めいた低温耐性の種との掛け合わせである。その二人目の親は長らく失われた環であり、2011年になってようやく、パタゴニアの森のナンキョクブナに野生のまま生きているのが見つかり、Saccharomyces eubayanusと名づけられた。およそ千年前に起きたこの交雑が、涼しい貯蔵庫の寒さの中でも澄んだ味に発酵する酵母を醸造家にもたらした。
「貴腐」のカビが、最も甘いワインを生む 世界の偉大な甘口ワインは、ブドウを腐らせるあるカビに頼っている。貴腐と呼ばれるボトリティス・キネレアは、皮の薄い熟したブドウを貫いて水分を蒸発させ、干しブドウのほうへと縮ませていく。果粒は重さのおよそ60パーセントまで失うことがあり、あとに残る糖、酸、グリセロールが凝縮される。霧の朝に乾いた午後が続くと、腐敗は破壊的ではなく「貴い」ものとなり、ごくわずかな、濃厚に甘い果汁を生む。
アイスワインは、凍りついたブドウから搾られる アイスワインは、ブドウを冬まで樹に残し、凍ってから、およそマイナス7〜8度かそれ以下でようやく摘み取って造る。凍った果粒はまだ凍ったまま搾られるので、水分は氷の結晶として圧搾機に残り、濃厚に甘く凝縮した果汁がほんのひと筋だけ流れ出る。こうして得られるのは、糖度が30ブリックスを超えることもあるシロップのような果汁で、一粒ごとのわずかな液体だけからつくられる。
スパークリングワインの澱は、凍らせて撃ち出される 二次発酵を終えたスパークリングワインの瓶は、役目を終えた酵母で濁っている。瓶を首を下にして傾け、回しながら澱を首へと滑り落とし、それから首をおよそマイナス25度の凍えるような塩水に浸して、沈殿物を小さな氷の栓に閉じ込める。王冠を弾き飛ばすと、瓶そのものの内圧が凍った栓をきれいに撃ち出し、あとには澄んだワインが残る。この工程はデゴルジュマンと呼ばれる。