自然界でいちばん強い材料は、カサガイの歯だ カサガイは、無数の微小な歯が列をなして並ぶリボン状の舌で、岩から藻をこそげ取って食べる。2015年、ポーツマス大学の研究者がその歯のかけらを原子間力顕微鏡で挟み、折れるまで引っ張ったところ、引張強度は3〜6.5ギガパスカルに達した。クモの糸をわずかに上回り、最高級の炭素繊維に匹敵する。この強さは針鉄鉱という鉄の鉱物から生まれる。柔らかいタンパク質の中にぎっしり詰まったナノ繊維として育ち、あまりに細いため、大きくなっても材料は弱くならない。
ホタテは200個の鏡の目であなたを見ている ホタテの外套膜のふちには、まばゆい青色をした小さな目が最大200個も並んでいる。私たちの目のようにレンズで焦点を合わせるのではない。一つひとつが、反射望遠鏡のように湾曲した鏡を使う。その鏡は、グアニンの平らな四角い結晶が何百万個もほぼ完璧なモザイク状に敷き詰められ、20〜30層にも重ねられてできている。鏡は光を二重の網膜へと跳ね返す。この四角い結晶の構造が解明されたのは、ようやく2017年になってからだった。
オウムガイは潜水艦のように浮き沈みする オウムガイは5億年ものあいだ、ほとんど姿を変えていない。渦を巻いた殻は30以上の密閉されたガス室に分かれ、連室細管と呼ばれる生きた管が貫いている。浮き沈みするとき、この動物は各室に液体を出し入れし、液体とガスを入れ替える。まさに潜水艦がバラストタンクで行う釣り合いそのものだ。そのおかげで深い海中をほぼ無重力のように漂い、体から水を噴き出して後ろ向きに飛ぶように進む。
この染料はかつて、同じ重さの金より高価だった 三千年ものあいだ、王者の紫はトゲのあるアクキガイ科の巻貝の体内の腺から採られていた。淡い液は日光が当たって初めて深い紫に変わるが、一匹からはほんのわずかしか取れず、わずか1グラムの染料を作るのに約10,000匹を要した。そのため、この色は金より高価で、皇帝だけのものとされた。今でもドイツの顔料メーカーが、本物を1グラムおよそ2,500ユーロで売っている。
この巻貝の銛は、依存性のない鎮痛薬になった イモガイは、毒を仕込んだ銛のような中空の歯を撃ち込んで魚を狩る。イモガイの一種 Conus magus から得られるあるペプチドは、脊髄神経のカルシウムチャネルを塞ぎ、痛みの信号を源で断ち切る。ジコノチドという薬として合成され、2004年に患者のもとへ届いた。海の動物から承認された史上初の薬である。激しい痛みに対してモルヒネのおよそ1,000倍の強さとされ、しかも依存性がない。
貝が体を固定する糸から、黄金の絹が織られる 地中海で最大の二枚貝であるタイラギは、足糸と呼ばれる細い繊維で海底に体を固定する。それを採って梳けば、海の絹に織り上げることができる。あまりに軽く、生まれつき黄金色をしたその布をめぐって、古代の著述家たちは数々の伝説を紡いだ。この技はほぼ失われた。今ではサルデーニャに、一族28代にわたって受け継いできたこの技を知る女性が、おそらくただ一人残るだけだ。その言い伝えによれば、布は贈ることだけが許され、決して売ってはならない。
真珠層はほとんどがチョークと同じ成分、なのにほぼ割れない アワビの虹色に輝く内張りは、約95パーセントがアラゴナイト、黒板のチョークと同じもろい鉱物だ。それでもこの殻は、割るのが何千倍も難しい。秘密はその構造にある。微小な鉱物のれんがが積み重なり、伸び縮みするタンパク質のモルタルの薄い層で固められているのだ。ひびが広がろうとすると、タンパク質がそのエネルギーを吸収し、ひびを一つひとつのれんがの周りへ迂回させる。だからまっすぐ割れずに、途中で止まってしまう。
この巻貝は、自分で作った泡のいかだで海をゆく アサガオガイは、一生を海面に漂って過ごす。自分で作った泡のいかだの下に逆さまにぶら下がり、粘液に空気を閉じ込め、それが固まって浮きになる。紫色の殻は下側ほど濃く、見下ろす海鳥には暗い海に、見上げる魚には明るい空に見える。泳げないので、いかだを失えば沈んでおぼれてしまう。風のなすがままに漂い、行き当たる「風まかせの船乗り」ことカツオノカンムリを食べて暮らす。