この完璧な立方体は機械で削られたものではない 黄鉄鉱は、工房で削り出したかと思うほど鋭い稜と鏡のような面をもつ立方体に成長することがある。それでも道具は一切触れていない。鉱物がゆっくり形成される場所では、鉄と硫黄の原子が完全な立方格子に落ち着く時間があり、剃刀のような稜と平らに輝く面が生まれる。天然である唯一の手がかりは、各面を走るかすかな平行の筋だ。
その名は「火を打つ石」を意味する 黄鉄鉱の名は、ギリシャ語の「火の石」に由来する。鋼に打ちつけると火花を雨のように散らすからだ。人々は何千年ものあいだこれで火を起こし、最初期のばね式銃もこれを使った。ホイールロックは、押し当てた黄鉄鉱の塊に鋸歯状の鋼の輪を回しつけ、火薬へと火花を降らせた。火打石がその役目を引き継いだのは、何世代も後のことだ。
アンティークの「白鉄鉱」の宝飾品は、実は黄鉄鉱 アンティークの「白鉄鉱」のブローチにはめ込まれた、鋼色がかった金色にきらめく小さな石は、白鉄鉱などではない。ファセットを刻んだ黄鉄鉱だ。本物の白鉄鉱は同じ硫化鉄だが、崩れて酸をにじませる不安定な姿をしており、宝飾には使えない。そこで職人たちは、より丈夫な双子のほうを刻んだ。そして二つの鉱物が長らく一つの名で呼ばれていたため、誤った呼び名がそのまま定着してしまった。
化石ではなく、成長した平らな黄金の円盤 アメリカ中西部の一部で石炭層のあいだの頁岩を割ると、「パイライト・サン」が見つかることがある。中心から金色の光条が放射状にのびる、平らで丸い円盤だ。初期の鉱夫たちは化石だと思った。だが違う。薄い岩の層のあいだで押しつぶされた黄鉄鉱の結晶が、立方体に育つかわりに横へ広がるよう強いられ、星の輝きのような形になったものだ。
ゆっくりと自らを壊していく黄金の化石 酸素のないまま埋もれると、貝殻は原子ひとつひとつが黄鉄鉱に置き換わり、金のように輝く化石が残ることがある。だが湿った空気にさらすと、黄鉄鉱は酸化しはじめ、硫酸鉄と硫酸へと変わる。化石はひび割れ、硫黄のにおいを放ち、淡く粉っぽい結晶を吹き出し、ついには崩れて何も残らなくなることもある。学芸員たちが恐れ、「黄鉄鉱病」と呼ぶ、ゆるやかな自己崩壊だ。
この岩を割ると、小川がオレンジ色に染まる 黄鉄鉱は埋もれているうちは安定しているが、採掘で空気と水にさらされると酸化して硫酸になる。その酸は周りの岩から金属を溶かし出し、小川へとにじみ出て、水も石も鮮やかな錆色のオレンジに染める。あとに残るざらついた鉄の泥に、鉱夫たちは名前をつけている——「イエローボーイ」だ。
彼が船で運んだ1,000トンの金は、ただのゴミだった 1578年、北極へ向かったイギリスの遠征隊は、金を豊富に含むと信じて、きらめく鉱石を千トン以上も持ち帰った。イングランドに戻り、炉が真実を告げた。それは価値のない硫化鉄——愚者の黄金だった。膨大な積荷は捨て置かれ、その一部は塀や道の路盤の砕石として終わった。真鍮色の石をめぐる、歴史上もっとも高くついた過ちのひとつだ。
世界の酸は、かつてこの岩から生まれていた 硫酸は産業を支える働き者の薬品であり、一世紀以上にわたって、その硫黄の大半は黄鉄鉱から得られていた。真鍮色のこの鉱石を焙焼すると硫黄がガスとして追い出され、それを捕らえて酸へと変えた。1960年になってもなお、自由世界の硫黄のほぼ半分は、採掘された硫黄ではなく焙焼した黄鉄鉱から来ていた。