妊娠しているのは、こちらの父親 タツノオトシゴでは、メスがオスの腹にある密閉された育児嚢へ卵を移し、オスがそこで受精させて運ぶ。妊娠後期になると嚢の壁が薄くなり、血管が密に張りめぐらされて哺乳類の胎盤のように働き、胚に酸素を送り、老廃物を運び去る。腹の膨らんだオスは最大1,000匹の子を抱え、約30日の妊娠を経て出産する。
胃がないのに、1日3,000回の食事 タツノオトシゴには胃も歯もなく、食べた物はほとんど消化されないまま腸を駆け抜けていく。十分な栄養をとるには、ほぼ休みなく食べ続けるしかなく、最大3センチ離れたところから管状の吻で小さな甲殻類を吸い込む。1匹が生きながらえるためだけに、1日でアルテミアほどの大きさの獲物を約3,000匹も飲み込むことがある。
両目がそれぞれ別々に動く、カメレオンのように タツノオトシゴは、カメレオンとまったく同じように、左右の目を完全に別々に動かせる。片方の目で前方の獲物を追いながら、もう片方で背後の捕食者を見張り、硬い体を動かさずにほぼ360度を見渡せる。目には桿体と錐体があるため色も見え、約4.5メートル(およそ15フィート)先の物まで捉えられる。
物をつかむ尾は丸ではなく四角、それには理由がある 自然界の物をつかむ尾はほとんどが丸いが、タツノオトシゴの尾は四角い骨の板状の輪でできている。研究者が四角と丸の尾の模型を3Dプリントして比べると、四角い構造のほうが接触面積を多くとってつかみ、押しつぶされても元の形に戻り、丸い尾では耐えられない力にも耐えてはるかに頑丈だった。この研究は2015年に学術誌Scienceに発表された。
その吻は、さざ波ひとつ立てずに水を動かす カイアシ類はわずかな水の渦にも逃げ出すが、それでもタツノオトシゴは9割以上の確率で仕留める。細い吻と先細りの頭は、近づくときに水をほとんど乱さない形になっていて、襲いかかる瞬間まで後流をほぼ生まない。静かな領域がちょうど吻の先の真上にあるため、獲物はわずか1ミリの距離から捕らえられる。この忍び寄る捕食の強みは、2013年にNature Communicationsで確かめられた。
地球で最も遅い魚、時速1.5メートル コビトタツノオトシゴは、これまで測定されたなかで最も遅い魚としてギネス世界記録を持ち、おそらく時速0.016キロ、約1.5メートルを超えることはない。体は硬く鎧のようなので、水中でほぼ垂直に浮かんだまま、1秒に何十回も動く小さな背びれをはためかせて、わずかずつ前進することしかできない。
尾の下のくぼみに250個の卵を抱えて運ぶ タツノオトシゴと違い、リーフィーシードラゴンには育児嚢がない。代わりにメスは、最大250個の鮮やかなピンク色の卵をオスの尾の裏側にある特別な抱卵部に押しつけ、卵はそれぞれ血管に富んだ皮膚のくぼみにおさまって酸素を送り込まれる。父親は小さなシードラゴンが孵るまで、何週間もむき出しのまま卵を運び続ける。
その一撃は、ばね仕掛けのパチンコ タツノオトシゴは獲物を追えないので、待ち伏せして襲う。首の大きな腱を引き絞ったパチンコのように張りつめ、200ミリ秒以上その緊張を保ったあと一気に解き放ち、5ミリ秒足らずで頭と吻を20度以上も上向きに跳ね上げて獲物を吸い込む。魚で記録されたなかでも最速級の捕食の一撃だ。